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ご利用者の声(医療従事者の皆様)

テキサスメディカルセンター内病院研修・訪問記

2003年11月-医師

2003年9月から11月までの約3ヶ月間にわたり、米国テキサス州のHouston Hospice, VITASR HEALTHCARE, テキサス大学MDアンダーソンがんセンター緩和医療科で、ホスピスケア・緩和ケアと3次がんセンターにおける3次緩和ケアについて研修を行いました。

日本のホスピスケア・緩和ケア

日本では1981年に、日本で最初のホスピスが聖隷三方原病院に開設されました。90年には緩和ケア病棟入院料が設定され、全国にホスピス・緩和ケア病棟が増加し、2003年10月1日現在121施設、病床数は2310を数えるに至っています。

しかし、それでも全がん死亡の3%程度の患者さんしか利用できず、待機期間が長い、入棟基準が厳しく敷居が高いなどの問題もあって需要と供給のミスマッチが問題となっており、ホスピス・緩和ケア病棟の不足解消と、在宅ケア、一般病棟での緩和ケアチームの充実が不可欠です。

また、2015年には、国内のがん患者数は533万人と現在の約2倍に増加し、がん死亡も約1.5倍の45万人/年に達すると推計されおり、少子高齢社会を考慮した、がん患者の標準治療、緩和ケア・終末期ケアの供給ならびに質の維持は国家的課題であると思われます。

米国のホスピスケア・緩和ケア

米国のホスピスケアは、英国のホスピスケアに倣い1970年代と1980年代初期に発展しましたが、その特徴は、英国やカナダの多職種による施設ケアと比べると、医療的介入を極力抑えた訪問看護師による在宅・訪問ケアであるとされていました。
しかし近年、経済的な問題や臨床上の問題で米国におけるホスピスケアの利用者は減少傾向にあり、急性期病院での死亡率が上昇するようになっています。

そのため、急性期病院における緩和ケアの需要が高まり、合同チームによる急性緩和ケア病棟(APCU)における3次緩和ケア、その他の病棟を対象にした緩和ケアチーム、緩和ケア外来を通しての症状コントロール、地域のホスピスケアプログラムとの連携、緩和医療の教育・研究を行うように変化してきています。

3次緩和ケアで、地域の家庭医療医と連携

1990年代半ば、カナダ・エドモントンのアルバータ大学のBrueraらは、3次がんセンターにおいて多職種による3次緩和ケアを行い、地域の家庭医療医と連携することによって、がん患者の療養・死亡場所を急性期病院から地域のホスピスケアプログラムへと移行させ、結果としてより多くのがん患者に緩和ケアを提供することを可能にしました。

また、がん患者が望む療養環境への移行をスムーズに行うため、様々な身体・精神症状の評価ツールおよび治療プロトコルが共通化して用いられています。

今後、日本でも少子高齢化、社会構造の変化、社会保障の変化により、施設型緩和ケアからコミュニティ・地域に根ざした緩和ケアを充実させる必要があると同時に、急性期病院においてがん治療を受けている患者さんのための3次緩和ケアも望まれることから、前述のBrueraらが1999年からHoustonで展開する3次緩和ケアと地域緩和ケアプログラムを学ぶためにHoustonを訪れました。

施設ホスピス・在宅ホスピス

Houstonには16のホスピスケアプログラムがありますが、そのほとんどは在宅プログラムで今回研修を行ったHouston Hospice とVITASR Hospiceの2つのプログラムのみが、施設ホスピス・在宅ホスピスの両方のプログラムを行っています。
テキサス州では、州法により2 名以上の医師が予後6ヶ月と判定すれば、がん・AIDSに限らず、どんな疾患でもホスピスケアを受けることができます。

従って、多くの患者さんがケアを受けられるように、基本は在宅における訪問看護師による訪問ケアであり、医療・介護的な面で在宅ケアを維持することができなくなった場合にのみ、施設でのケアを受けることができますが、症状コントロールがうまくなされれば在宅プログラムへ移ることになり、施設ホスピスのベッドも多くの患者が利用できるようトリアージされています。
施設・在宅ともに医師、看護師、介護士、薬剤師、ソーシャルワーカー、チャプレン、ボランティア等からなる合同チームがケアに関わっています。

各プログラムには退院調整専門の看護師がおり、紹介元の主治医やソーシャルワーカーから紹介の連絡が入ると、退院調整専門の看護師が病院や患者宅を訪問し、スムーズに在宅やホスピスに移行できるよう調整を行っているので、適切な移行が可能となっています。

退院調整専門の看護師と初回訪問看護師が連携の上、ケア計画を作成しケアの対象となれば訪問を開始します。
必要に応じて医師も訪問しますが、基本的には訪問看護師と介護士による訪問のみであり、提供できる医療レベルとしては必ずしも高くありません。
週に1度は全職種が集まりチームカンファレンスを行っています。

米国型の在宅ケアのシステム

米国のホスピスを支えるメディケアの保障は、終末期の医療費の抑制も目的にしているため、必要最低限となっており、提供できるケアには限りがあります。それを補うため専門のケアチームが、患者本人と家族にケアの受け方、やり方を教育し、責任をおわせセルフケアによる自立を求める教育を行っています。

今後、日本でも少子高齢化、在院日数の短縮化、緩和ケア対象者の増加により多くの患者に最低限の緩和ケアを社会保障として提供するためには、米国型の在宅ケアのシステムも十分検討に値すると考えられました。

地域のホスピスケアプログラムと連携し在宅移行を円滑に進める

一方で、近年米国ではホスピスケアプログラムの医療的限界や家族構成の変化、がん治療の進歩もあり、急性期病院で亡くなるがん患者が増加しています。そのため、急性期病院における急性期緩和ケア病棟、緩和ケアチーム、緩和ケア外来が発達し、入院中の患者さんに緩和ケアを提供するだけでなく、地域のホスピスケアプログラムと連携し在宅移行を円滑に進める取り組みが行われています。

また、3次緩和ケアプログラムでは、医学生やレジデント、地域の家庭医に対する緩和ケア教育の役割や、緩和ケアにおける研究の役割も担っています。
今回、研修させて頂いたMDアンダーソンがんセンターは1941年に開設され、現在では米国を代表するがんセンターに成長しており、年間患者数は 65000人を数えます。

MDアンダーソンがんセンターの緩和医療科

MDアンダーソンがんセンターの緩和医療科は、1999年に麻酔科の一部門として開設されました。現在では12床の急性期緩和ケア病棟(APCU)に5 名の専属緩和ケア担当医と3名のフェロー及び看護師、薬剤師、介護士、チャプレン、ソーシャルワーカーらで構成される合同チームでケアに関わっています。私の研修中には、スペイン、インドからも医師が研修に訪れていました。

センター全体のベッド数は500床程度ですが、院内で急性期緩和ケアを必要とする患者さんはAPCUを利用することができます。
2002年の世界保健機関(WHO)の提唱のとおり、緩和ケアはがんと診断された時点から始まり必ずしも終末期ケアとは限らないため、予後判定や入棟判定などは必要とせず、がん治療を行いながら緩和ケアを受けることができます。

急性期緩和ケアによって、症状や苦痛が改善しAPCUから直接自宅へ退院する患者さんもいれば、一般病棟でがんの積極的治療を継続する患者さんもいます。
積極的ながん治療の対象ではなく、急性期緩和ケアで症状や苦痛が改善すれば、地域のホスピスケアプログラムへ紹介となり自宅または地域のホスピスプログラムへ退院となるため、APCUの平均在棟日数は30日未満となっており、病棟死亡率も50%を下回っています。

一般病棟でがん治療を受けている患者さんには、緩和ケア専門医、合同チームが緩和ケアチーム(mobile team)として一般病棟を訪問する形をとり、院内どこにいても良質な緩和ケアを受けることが可能になっています。
緩和ケアチームでは常時40-50名程度の患者さんを診ており、一般病棟での症状コントロール、苦痛の軽減、精神的ケアを行っており、必要とあれば集中治療室(ICU)にも緩和ケアチームが出向き、症状のコントロールや死の問題の相談にのることもありました。

臨床倫理チームが、患者さんや家族の意志決定の手助け

緩和ケアチームに加えて、死の問題や倫理的な問題に関し、多民族・多宗教のアメリカ国民だけでなく、世界中から集まる様々なバックグラウンドを有する患者さんに対して、臨床倫理チームが院内で活動しており、患者さんや家族の意志決定の手助けをしています。私の研修中にはありませんでしたが、緩和医療科では、日本からの患者さんの緩和ケアにも数例関わったことがあるということでした。

ほとんどの患者さんは入院の適応にならないため近隣のホテルに滞在し、外来で化学療法や放射線治療を行っており、緩和ケアも外来で行うことが可能です。

ツールを用い、介入したケアが適切であったかどうか評価

APCU,一般病棟、外来とも患者さんの需要に対して緩和ケアの供給能力には限界があるため、ESAS(Edmonton Symptom Assessment System)やMDASI(MD Anderson Symptom Inventory)などのツールを用い、患者さんの苦痛、症状の評価を行い、介入したケアが適切であったかどうか評価を行っています。このツールによって入院の必要性の評価や、APCUのベッドコントロールなどを行っており、できるだけ多くの患者さんに緩和ケアが提供できるよう工夫が行われています。

またMDアンダーソンがんセンターでは地域のホスピスプログラムとの連携を重視し、ホスピスケアプログラムへ紹介された患者さんにもレベルの高い適切なケアができるよう、緩和ケア専門医と地域のプログラムのスタッフが数十人集まってバスに同乗し、在宅の患者さんを訪問し症状コントロールの指導や、問題点のカンファレンス、論文抄読等による最新の知識のアップデートなどが行われHouston地域での緩和ケアの向上に努めています(Texas Bus Round)。

米国社会に比べ日本の社会はsupplier優先のパターナリズム社会

私が強く感じたことは、米国社会に比べ日本の社会はsupplier優先のパターナリズム社会であるということです。
それは緩和ケア・ホスピスの世界でも同様です。近年の日本社会の行き詰まりや諸々の問題(年金問題、医療過誤、相次ぐ企業の不祥事、プロ野球の問題etc)も、consumerである一般市民、患者さん、物を買う人、お金を借りる人などを軽視、無視してきたためです。

日本の社会も少しずつ変わりつつあります。
医療制度や文化、宗教的背景が違うので単純に比較することはできませんが、パターナリズム社会から脱却し、後悔のない納得した生き方ができる社会に変化し、医師としてそれをサポートする役割を担えるようになれればと感じました。

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