※このページでの勝俣先生のお話は先生の承諾を得て作成させていただいています。
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授
第106回医師国家試験問題より。
集団に対してある癌の検診を行った。
検診後に観察された変化の中で、検診が有効であったことを示す根拠はどれか。
a 検診で発見されたその癌の患者数の増加
b 検診で発見されたその癌の患者の生存率の上昇
c 集団全体におけるその癌の死亡率の低下
d 集団全体におけるその癌の罹患率の低下
e 検診に用いられた検査の陽性反応適中率の上昇
正解は、NATROM先生が解説してくださっています。
皆さん、正解できるかな?
米国の医師での調査。69%の医師は、検診ががんの早期発見を増やし、生存率を改善すると誤解している。日本の医師は正しく理解しているでしょうか?
検診の有効性、b 検診で発見されたその癌の患者の生存率の上昇、では証明できないことをしっかりと理解する必要があります。
国家試験に出るくらいなので、がん専門医も当然知っておかなければいけないと思います。
キムリア、保険適用へ。値段が高くても効果がはっきりと示されている治療法はこのように保険適用になります。
値段が高くて効果がない治療法は、もちろん保険適用になりません。
白血病新薬キムリア 3349万円
がんの臨床試験、治験や先進医療まですべてこちらで検索できるので役に立つと思います。
>国内で行われている臨床試験の情報:[国立がん研究センター がん情報サービス]
ステージ3の卵巣がん患者さん。術後化学療法を勧められたが、拒否して、免疫クリニックにて、NK細胞療法+オプジーボ20mg(通常投与量240mgの1/10量)、ヤーボイ10mg(通常投与量の約1/5量)、保険適応外200万円の治療を受けましたが、4か月後に再発したそうです。
ステージ3卵巣がんは手術+化学療法の標準治療で、3割は治る病気。適切な治療を受けずに、再発してしまったのは、患者さんの自己責任なのでしょうか?患者さんの自己責任にしてよいのでしょうか?
オプジーボ20mg(通常投与量240mgの1/10量)、ヤーボイ10mg(通常投与量の約1/5量)で、効果があるなどという根拠はまったくない。
副作用が怖くて、減量したのでしょうね。専門医のいない施設や、副作用の緊急対応ができない施設ではやるべきでないと学会で注意喚起している。
米国がん登録での観察研究。標準治療+未承認治療が標準治療と比べて、併用効果があるかを調べた最新の研究。
結果:標準治療+未承認治療は、死亡リスクが2倍となった。
つまり、全く併用効果なし、むしろ、死亡リスクが高まったということです。
死亡率が高くなった原因として、標準治療+未承認治療群は、途中で、手術や放射線治療、抗がん剤などの標準治療を拒否している人が有意に多かったそうです。
こちらに日本語訳がありました。
後ろ向きの観察研究であり、エビデンスレベルはやや落ちるものの、米国がん登録という信頼できるデータベースであること、重要な予後因子を多変量解析しているし、かなり信頼度は高いと思います。
がんの自然退縮はたくさんの報告があるが、原因はわかっていません。
自然退縮例を集めて「○○をすれば良かった」などという本が話題になりましたが、科学的な本ではないですね。
神経芽腫の自然退縮例はある種の遺伝子が関わっていることも研究されています。
自然に回復するような病気は、どんな治療を行っても有効と判断される。がんにも、非常にまれだが、自然治癒がある。インチキ治療推進者は、がんの自然治癒を経験した人が多い。
がんの自然治癒。年間全世界で約20症例が報告されている。腎臓がん、悪性黒色腫、白血病、リンパ腫、乳がん、網膜芽細胞腫などに多い。
自然治癒を見ているだけにもかかわらず、〇〇をしていたのが効果があったと、信じ込んでしまう人がいる。医者にもいるので要注意。
私も、民間療法も何もやっていないのに、進行がんの自然退縮した患者さんは、これまで2例経験があります。
乳がんと子宮体がんの患者さんです。子宮体がんの患者さんは、腹水もあり、腹水細胞診で癌細胞を確認していますので、誤診でもない。
最初に自然退縮を見たときは、「世紀の発見をした」と思い、患者さんに根ほり葉ほり、「何かやっていなかったか?コーヒーをたくさん飲んだとか?」聞いたのですが、「普通に暮らしていただけです」と。
あの時に、自然退縮について色々文献調べましたが、世界からはたくさん報告があった。
私も一歩間違えれば、「〇〇療法でがんは治る」などというインチキ医者になっていたかと思うと怖くなりました。
がんの自然退縮について、岩永先生も書いておられますね。
標準治療にはいまだに多くの誤解がある。
標準治療にはかなり幅がある。「ガイドラインで、強いエビデンスがあり、強く推奨する」レベルの治療、複数のランダム化比較試験、メタアナリシスで、全生存期間を改善した治療、を標準治療とするなら、実際にはかなり少ない。なので、「標準治療だけしかしない」というのはおかしいことになる。
子宮体癌のAP療法もグレードB(ABCDの4段階中)なので、完全標準治療とは言い切れないくらいの治療。実際、グレードAとかの推奨度の治療はかなり少ない。たださすがに、グレードCよりはより推奨されるという感じ。
研究結果(論文)もなく、グレードがついていない治療は論外。
子宮体癌術後ハイリスク患者さんの標準治療はAP療法です。TCもオプションの一つ。
ガイドラインにもしっかりと書かれている治療なんですが、いまだにこれ以外の治療をやっている施設があると聞き、驚きです。
子宮体癌のAP(ADM+CDDP)療法。当科では基本的には、初回から通院治療です。制吐剤4剤使って、ほとんど吐気なし。だるさ少しのみ。仕事もでき、焼き肉食べられたそうです。
AP療法を初回から通院でやっている施設は日本だと、ほとんどないでしょうね。海外だと普通なんですが。
ゲノム医療の時代になり、免疫チェックポイント阻害剤を含む治験に入ることは患者さんにとっても、メリットが期待されるところなのですが、治験の情報よりも、インチキ情報のほうが簡単に得られやすいという悲しい現実があります。
医師が行うインチキ医療は巧妙です。がんの専門医だとインチキとわかりますが、専門外だとまったくわかりません。
医師でも騙されてしまうのです。私の知り合いの医師もインチキ医療を受けてしまった後、相談されました。
大事なお子さんを亡くされて、インチキを訴える気力は残されていませんでした。
インチキクリニックで治療を受ける人は年間数千人になるそう。治験を受ける人数より圧倒的に多い。
治験を受ける数より、インチキ医療を受ける数が多いなんて国は、先進国でも日本しかないという異常な状況と思います。