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ご利用者の声(医療従事者の皆様)

テキサスメディカルセンター内病院訪問記

2003年3月-薬剤師

この度、メディエゾンテキサス訪問サポートの協力のもと、平成15年3月17日(月)から3月26日(火)までの期間、アメリカ合衆国テキサスメディカルセンター内の病院を研修する機会を得ることができました。
研修施設は、テキサス医科大学系MD Anderson Cancer Center、Memorial Hermann Hospital、ベイラー医科大学系The Methodist Hospitalの3施設で、たいへんに有意義な研修となりました。

今回の研修では、米国のClinical Pharmacist(臨床薬剤師)の活動と、臨床試験、さらに抗癌剤の混注などの薬剤師日常業務について、研修、見学することを目的としました。

テキサスメディカルセンター(TMC)は、テキサス州ヒューストン市に位置し、13病院と2医科大学、多数の研究機関を有し、年間患者数480万人、従業員数約6万2千人規模の世界的に有名なメディカルセンターです。

3月17日~21日の5日間は、MD Anderson Cancer Center (MDACC) で研修を行いました。
MDACCは、米国でも癌医療において最先端の施設です。
病床数約450床、薬剤部門約350人(薬剤師約200人)、年間外来患者数約40万人以上の患者さんが海外からも訪れる施設です。
MDACCでは、幹細胞移植科(BMT)上野直人助教授のご配慮により、MDACCのチーム医療を中心とした臨床薬剤師の活動を見学させていただきました。

臨床薬剤師の役割

まず大変に驚いたのは臨床薬剤師の役割です。
同じ薬剤師でも、ここまで薬物療法に深く関与し責務を担うことができる薬剤師が存在すること、そしてどのようにしたら日本の薬剤師が近づけるのかなどいろいろ考えさせられました。

BMT病棟のチーム医療体制は、医師、Advanced Practice Nurse (APN・実践上級看護師)、Clinical Pharmacist、Research Nurse (RN)を1チームとし、2チームで約40人の入院患者さんの診療にあたっています。
決定的に日本の薬剤師と違う点は、薬剤師が処方箋(抗癌剤と麻薬以外)を書き、投与の継続、中止の指示を行っていました。

一般看護師が投与量を疑問に思った時でも、自分の責任で判断します。
医師はClinical Pharmacistを信頼し、看護師も投薬に関することはClinical Pharmacistから指示をうけていました。
本来のチーム医療のありかたを見たように思いました。

BMT病棟のClinical PharmacistであるHetal B. Shah先生から、次のようなアドバイスをいただきました。
患者さんのために薬剤師が何をするべきかを考えれば、制度が違っている日本でもチーム医療のありかたが見えてくると。
将来的な構築をも熱く語るHetal先生が印象的でした。

外来スタッフのチーム体制

BMT外来での研修もさせていただきました。
BMTの外来スタッフは、RN、Physician Assistant、診察日や検査等を管理する人、外来患者さんの診察を調整するコーディネーターなど数人のチーム体制をとり、いろいろな面から医師の診察をサポートするようになっています。

日本のように診察時のときに一人ずつ呼ばれるのではなく、まず患者さんは診察の前からそれぞれの個室で待機し、RNの面談を受けます。
RNは、いままでの治療歴、薬物療法、検査などの患者情報を収集します。

次にPhysician Assistant がすべてのデータを検索し処方箋を書いておき、最後にこれらの患者情報をもとに医師の診察となるシステムでした。
上野先生は、患者さんに十分な説明を行い、患者さんからの質問や今後の方針まで、時間をかけて診察にあたっていました。
多少待ち時間が生じても納得できる説明とサポートは、患者さんにとってかなり満足のいく結果になっているように思えました。

BMTにはData Manager(DM)がおり、移植をうける患者さんのデータを管理していました。
データ入力は、移植前から行われ、移植後100日までは毎日、6ヶ月後からは3ヶ月ごと、1年後からは1年ごとフォローされます。
この体制は1990年から開始され、現在年間約400人がフォローされています。
患者情報が日々更新されるので、移植前後の患者把握には不可欠であると感じました。

外来の面談

乳腺外来のClinical PharmacistであるLaura L. Michaud先生の外来面談に同席させていただきました。
乳腺グループもBMT科と同様、医師、Clinical Pharmacist、RNでチームを組み、外来患者さんの対応をしています。
ここでも患者さんは個室で待機し、RN、Clinical Pharmacistからそれぞれ面談をうけます。

RNは、患者さんの症状、いままでの治療歴や投薬歴など総合的な質問を行い、患者さんの全体像を記録します。
Clinical Pharmacistは、薬物治療を中心としたMedical Recordを作成します。
その際得られた情報から、投薬時間、処方変更の必要がある場合など、あらかじめ医師にコンサルトしていました。

医師はこれらの情報をもとに診察を行います。
日本では、この一連の流れをすべて医師が行っていることを思うと、限られた時間での医療は難しいと感じました。

Laura先生の重要な業務の一つに、薬剤情報シートの作成があります。
これは、新規の抗癌剤治療や、臨床試験が開始されるときに、医師、薬剤師らで作成しているとのことです。

この情報シートには、薬効、副作用、投与方法、服薬指導等すべての情報がふくまれ、だれが担当しても同じような治療、患者サービスができるように作成されていました。

これは、日本でも取り入れられる一つではないかと思いました。

アメリカにおける、チーム医療の構想

アメリカにおいて、チーム医療の構想ができたのは60年代終わりごろでした。
その後、多くの試行錯誤を繰り返して、1988年、MDACCに初代 Clinical Pharmacist が誕生しました。
現在では、MDACCは32人のClinical Pharmacistが活躍しているとのことです。
現在の体制が確立するまで、アメリカでも約40年の歴史があったと感じました。

Clinical Pharmacistになるためには、薬学部卒業後General Residency、Special ResidencyさらにFellow Shipなど約10年を要するそうです。
そして実際勤務するためには、その州の資格試験を受ける必要があるとのことです。
ほとんどのClinical Pharmacistは大学で臨床面を中心とした講義を行っており、教育の点でもチーム医療が浸透していると感じました。

MD Anderson Cancer Centerの臨床試験

MDACCの臨床試験は、年間約800件のプロトコールが実施されています。
BMTのRN、Rachael Wilsonさんにお話をうかがうことができました。
RNの主な業務は、担当臨床試験のスケジュール管理、臨床試験の院内での運用、患者教育などがあげられていました。

臨床試験分野においてもそれぞれの役割は明確に分担されています。
たとえばインフォームドコンセントを例にとると、医師は治療全体を、RN はプロトコールを、各フロアのNurseは移植について、コーディネーターは移植の費用やその他と、それぞれの担当が決まっていました。

Investigational Pharmacist のVu H. Ta 先生から、MDACCのIRBについて説明をうけました。MDACCのIRBは隔週に行われており、1回に約10~20のプロトコールが審査されます。 IRBのメンバーとして、医師、薬剤師、弁護士、一般市民があげられていました。

Clinical and Translational Research Center(CTRC)は外来専門の臨床試験センターで、ここには採血を専門とするフラボトミストがいました。
そのため、RSがPK用の採血時間を気にする必要はなく情報収集ができるそうです。
ここでも日本では存在しない医療スタッフが活躍していました。

薬剤部の業務

薬剤部の業務では、ATC (Ambulatory Treatment Center)Unit(通院治療センター)と外来調剤を見学しました。
薬剤師が配置されているUnitは、ATC Unit, Transfusion Area、Chair Area、BMT Areaです。

ATC Unitの薬剤師は、処方内容のチェックや混注された薬剤の監査を担当していました。
ATC Unitは1日平均約100人の患者が来院します。その予定表にしたがって事前にレジメンチェックを行い、投与が決定しだいFAXで連絡があり調製を実施していました。

実際の混注は、テクニシャン(薬剤師ではないが薬剤師協議会の認定を受けた人)が行い、薬剤師が監査を行います。
MDACCでの監査システムは、抗癌剤を注入したバックの総量を計測する監査でした。
その結果はデジタルに表示され証拠として残しておきます。
テクニシャンによって調製されたものを、薬剤師が監査するシステムは、施設によっていろいろな方法がとられていました。

アメリカのほとんどの病院では、PIXISコネクトシステムを採用しています。
PIXISは、いわゆる薬剤保管管理システムで、薬剤の納品、払い出し歴が明確に記録されるシステムで、払い出しミスや、返品等のトラブル回避に有用ということです。
MDACCの麻薬、抗癌剤用PIXISは操作する者の指紋判定を必要する特別なPIXISを使用していました。

Baylor大学系のMethodist病院を見学

3月24日はBaylor大学系のMethodist病院を見学しました。
エントランスロビーの美しさは声もでないほど驚きました。

日本のホテルのロビーといっても少しもおかしくはありません。
ロビーの中央では、患者さんも病院スタッフも食事ができるようになっていて、コミュニケーションやリラックスできるスペースな確保は十分整っています。

病床数1250床、医師数約3000人、看護師約5000人、薬剤師数139人、テクニシャン93人。
心臓病センターを有し、いたるところに心臓の治療に関する情報が掲示されていました。

患者用心臓リハビリセンターでは、医師の管理下でリハビリが行われていました。
心臓病コーディネーターがいて、患者教育やリハビリのスケジュール管理を行い、一定のプログラムが終了した後の生活もモニターするということです。
やはりここでも医療をささえるいろいろな職種があり、そこから多くの支援がえられ患者さんのための医療が成り立っていると感じました。

アメリカの病院は、薬剤師とテクニシャンでチームを組んで24時間体制をとっていることが多いようです。
つまり土日であっても平日と変わらず稼働するということです。
ここMethodistでも同様な体制がしかれていました。

Methodist病院のClinical Pharmacistは、日本と同様、主として患者教育を行っていました。
Care Notes System、MICROMEDEX(3ヶ月ごとに更新)、Medteach(ASHP)を利用し、患者さん向け指導パンフレットを作成し指導するそうです。患者さんからの質問はもちろん医師、看護師からの質問にも対応していました。

臨床試験は、薬剤師1名、テクニシャン1名で管理実務を行っていました。
現在65プロトコール(新薬は約半数)が実施されており、抗癌剤、循環器(心臓)用剤などで約80%をしめていました。
薬剤師は、プロトコールの管理を行い、薬剤部向けの臨床試験情報を作成しています。

いろいろなデータ収集は、RNが行っていました。
IRBは、系列大学(Baylor医科大学)で一括して行われ、1月に6回、6チームに分けて行われるそうです。
委員は、それぞれの科の医師、薬剤師、弁護士、その他一般市民など多職種で構成され、その審査結果は、オンライン上で把握できるシステムでした。
治験のスピードの面でも、いろいろ工夫されていると思いました。

Medication Safetyを担当する薬剤師 Thomas E. Schwartz先生からお話をいただきました。

未然に防いだインシデントや、実際起きたインシデント、アクシデントの報告をレベル1~3に分析し、関連部署に情報として報告する業務を担当していました。
レベル1は、薬剤部で疑問点を問い合わせたがそのまま実施されるもの、レベル2は変更になるもの、レベル3はインシデント、アクシデント(たとえば副作用による消化管出血も含まれる)がおきたことに分類されていました。
その結果はMedication Outcomes Management sub committeeや、 Pharmacy and Therapeutic committee で報告されるということです。Thomas先生は、ニアミスをどのように処理し、今後の対策に生かすかが重要と述べていました。

テキサス医科大学系Memorial Hermann Hospitalを見学

3月25日は、テキサス医科大学系Memorial Hermann Hospitalを見学しました。
病床数800床、薬剤師数80人、テクニシャン60人、8人のClinical Pharmacistがいました。
Memorial Hermann Hospitalは、1925年テキサスメディカルセンター内に最初に設立された病院です。
ここの病院も大変に美しい病院で、施設内の道案内の標識さえ工夫されていました。

この病院は、レベル1の救急病院に指定され、独自の病院専用ヘリポートを有しています。
併設の小児病院への搬送も行っていました。

薬剤師の勤務態勢は、ここでも24時間3シフト制がとられていました。
そしてこの病院の特徴として、お金のない患者もすべて医療が受けられる医療体制をとっていることをあげていました。
年間収入が一定金額以下の患者はすべての医療費の援助が国から得られるシステムを導入しているそうです。
ただし、1患者への国の援助金は、1生涯100万ドルのため、多くの患者は、不十分であり、そしてその医療費は年々増加傾向にあるということです。

Clinical Pharmacistが配置されているのは、循環器、脳外、救急、小児病棟でした。
今回は、小児病棟(PDA Unit)を見学しました。

ここでは、医師、医師学生、Clinical Pharmacist、薬学生、看護師で1チーム体制でした。
Clinical PharmacistのChi M. Pham先生から、薬物投与チャートについて、Clinical webで説明をうけました。
薬物治療の画面に体重を入力すると、投与量や投与時の注意事項が表示されます。
体重は、2kgから99kgまで対応可能で、腎機能等のファクターも関与できるようになっていました。
ここでも処方箋はClinical Pharmacistが書き、そのあと医師からサインをもらう体制でした。

Investigational Pharmacist のMichael Olivares先生とTony Yeung先生からお話をうかがいました。

IRBはテキサス大学で、月2回行われるそうです。
1回の審議プロトコール数は、20~25件。
Hermann 病院では、現在65件の臨床試験が実施されているそうです。

臨床試験は、製薬企業依頼のもの、NIH依頼、医師の研究がほとんどでした。
IRBの審査資料は、臨床試験用データーベースがあり、それにそって提出資料を作成するようになっています。
セントラルインフォメーションの情報から、迅速にIRBの情報入手が可能であるということです。
治験情報を早く入手できることは、いろいろな面から有用であると感じました。

Pharmacyレジデントについて説明いただきました。
テキサス州では、薬学卒業生の約10%がPharmacyレジデントになるそうです。

ヒューストン市では、1施設 4名のレジデントを8病院が受け入れています。
Pharmacyレジデントは、薬剤師の業務以外にテクニシャンの仕事も学ぶ目的で、ここHermann病院では薬剤師とテクニシャン、Pharmacyレジデントでチームを組みシフトする体制でした。

最後に、薬剤部長のDonna Grayson先生よりMedication Safetyについてご説明いただきました。
基本的には、起きたことをすべて報告し、その原因や傾向を分析することであるということです。

その結果をポリシーも含めて関連部署すべてに報告し、これを実施しやすいように工夫をする。
たとえば、シンプルな報告フォームを作成することや、院内ランを利用することなどをあげていました。

将来的には、患者管理バーコードシステムを実施する予定であるということです。
患者さんをバーコードで管理し、投薬に関するすべてのチェックやオーダーまで一括して行うことが、近い将来可能になるとのお話でした。

感想

私にとってこのアメリカ研修は、「百聞は一見にしかず」 まさにこの一言でした。基本的に制度のちがいはあれ、患者中心の医療を目指しそれぞれの職能を生かした体制づくりを行うこと、これがすべてという気がしました。

そのなかでも日本と大いに違うと感じたのは、ボランティアの存在です。アメリカのボランティア精神はいたるところに定着し、医療にかかわるすべての人が、自信と満足感で満たされているように思えました。

アメリカのチーム医療は、長年の歴史を経て確立されたという経緯を聞き、日本においても今後の新しい業務拡充はこれからではないかと思いました。そのためには、日本の制度のなかで何ができるかをしっかり見極め選択することが重要であると感じました。

今回の研修は、メディエゾンテキサスの協力によって実現することができましたことを心から感謝いたします。


通訳の皆様、通訳だけではなく、多くの情報をありがとうございました。いつかまたお会いできる日を楽しみにしています。

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